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富山地方裁判所魚津支部 昭和44年(タ)1号 判決 1980年9月26日

主文

一  被告は、原告に対し二二五万円及び内金一〇〇万円に対する昭和四四年五月一八日から、内金一二五万円に対する本判決確定の翌日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告は、原告に対し、八四〇万円及びこれに対する昭和四四年五月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告と被告とは、昭和三一年一一月四日結婚し、同三二年八月二二日婚姻届をしたが、同三八年九月二三日協議離婚届をし、同年九月二五日再度婚姻届をした。

原被告が右のような形式をとつたのは、原告の父魚津寅吉が旧民法による婿養子縁組のつもりであつたので、被告も承諾のうえ妻の氏を称することとして婚姻届をしたが、その後、被告はこれを嫌悪し原告につらくあたるので、一旦離婚の形をとつて夫の氏を称することとして、再度婚姻届をしたものである。

2  被告は、婚姻前は岩田電機店の出店として時計修理と電気器具の販売をしていたが、婚姻後は、昭和三二年一月ころ、原告の父から、資金として三〇万円の贈与を受け、時計販売業を開業するに至つた。原告は被告に協力して、昭和三七年八月、被告の現住所に家屋を建築し、被告は同所で、従来からの誠幸堂の商号で時計販売業を開業した。泊における一等地という立地条件にも恵まれ、被告の営業は隆盛の一途をたどり、現在では県労協指定店に選ばれるまでになつた。

3  ところが、被告は、昭和三九年夏ころから丸山須真子(以下「丸山」という。)と懇ろになり、原告と離婚して同女と結婚することを前提として情交関係を結ぶに至り、同女との間に二児をもうけ、同四一年六月には、同女のために富山市覚中町所在の山野ビル一、二階を敷金七五万円、賃料一か月四万円の約束で賃借し、内装、備品を六〇万円で買受け、同所において、バーを経営させ、生活費の支出までしてきた。

その後、被告は、右丸山と共謀して、富山家庭裁判所魚津支部に認知請求調停事件及び男女関係解消に伴う慰藉料請求調停事件を提起させ、昭和四三年三月に、結局、丸山が右認知請求を取下げ、被告が同女に慰藉料五〇万円を支払うこととし、これ以後、被告は同女との関係を絶つたかのように装つた。

4  しかしながら、被告と同女との不倫な関係は依然として続いており、被告には原告との共同生活を維持しようとする意思も態度もないので、原告は、昭和四三年一〇月中旬、自殺しようとしたが果さなかつた。その際、被告から遺書を書いてから死ねなどと暴言を受けたので、原告は被告に対する信頼を全く失うに至つた。

5  昭和四三年一二月一四日、被告方において、問題解決のため原被告を含め、双方の親族が集つて協議した。その際、被告は、(1)丸山との間に生まれた子のうちの一人を被告が引取り、原告がこれを育て、養子縁組をして将来、全財産を同人に相続させること、(2)もう一人の子に対しては、養育費として毎月二万円を支給すること、を要求し、原被告間に亀裂の生じた婚姻関係をいかに改善するかという一片の誠意も示さなかつた。ここに至り、原告はもはや離婚のほかはないと思うに至つたが、なお、今一層の努力をする覚悟で別居をためらつていた。

しかし、その後も被告の態度は全く改められないばかりか、実家に帰ることを求めるような態度に出るので、ついに原告は居たたまれなくなり、昭和四四年二月一日実家に帰り、同月六日、一旦帰宅したが被告から弁護士に相談したといわれたため、もはや万事終つたと考え、同年二月一〇日富山家庭裁判所魚津支部に離婚調停の申立てをしたが、同年五月一日不調に終つた。その後、原告は富山地方裁判所魚津支部に離婚、財産分与、慰藉料、家屋明渡の訴訟(本訴はその一部)を提起したが、同四七年一一月一日協議離婚することについては和解が成立したため、同月二日協議離婚届をした。

6  原告と被告が右離婚するに至つた原因は被告の前記不貞行為にあり、その責は挙げて被告が負うべきである。原告は、結婚後一三年間、被告の良き妻となるべく努力し、単に家庭を守るだけでなくその営業にさえも協力してきたもので、離婚により蒙る精神的苦痛に対する慰藉料としては一三〇万円が相当である。

7  被告の営業が繁栄を来たしたのは、原告の商品仕入、商品管理及び店頭販売に対する協力と、原告の父の資金援助に負うものである。被告は、別居当時、少なくとも別紙目録記載のとおりの資産を有していた(その他売掛金一〇〇万円余、商品等不明)。右のような事情を考慮すれば、被告は離婚に伴う財産分与として右資産の約二分の一にあたる七一〇万円を分与するのが相当である。

8  よつて、被告は原告に対し、右合計八四〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四四年五月一八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1項のうち、原告と被告とが原告主張のとおり結婚し、婚姻届、協議離婚届、再度の婚姻届をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2項のうち被告が誠幸堂の商号で時計の販売修理業を営んでいること、その土地が泊における一等地であり、右店舗が県労協指定店に選ばれていることは認めるが、その余の事実は否認する。

3項のうち被告が丸山と懇ろになり情交関係を結ぶに至つたこと、原告主張のように建物を賃借し、バーを経営させたこと、原告主張の調停事件が提起され、原告主張のような結果に終つたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告が丸山と懇ろになつたのは、昭和四〇年春ころであり、同女と結婚を前提として交際したものではなく、原告主張の二児は被告の子ではない。なお、原告は、昭和三四年ころから病弱のため家事が十分できず、また原告の身体上の欠陥により夫婦の間に子供ができなかつたため、病院で診療を受けたが、夫婦関係は調和せず、円満でなくなつた。

4項の事実はすべて否認する。昭和四三年三月の調停成立以来、被告は同女と会つていない。

5項のうち原告主張の日に、原被告間の問題解決のため、原被告を含め双方の親族が集つて協議したこと、原告がその主張の日に、実家に帰り、また一旦帰宅したこと、原告主張のとおり調停申立をし、これが不調に終つたこと、原告主張の訴訟が提起されたが、協議離婚することについては、和解が成立したため、その主張の日に協議離婚届がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。右の親族会議において、原告と被告は婚姻を継続することになつた。ところが、原告は、昭和四四年二月一日ころ、被告に対し、「長い間ありがとうございました。何もいりませんから、これで別れます。」とあいさつして実家に帰つた。原告は、同月六日被告方へ来て、「出ていきたくないのだが、あんたが父に謝つてくれれば、このままいる。」旨述べたが、被告が謝る必要がない旨答えたところ、「実は荷物をとりにきた。」として、原告の荷物全部を持ち去つた。

6項の事実はすべて否認する。原告は被告の不貞を許し、昭和四四年一月下旬まで原被告間には肉体関係があつたものである。

7項のうち別紙目録の資産については以下の限度で認める。すなわち土地については被告は二分の一ではなく全所有権を有するもので、その価格は約二〇〇万円であり、自動車については、日産セドリツクではなく、トヨペツトクラウンで、その価格は約三〇万円であり、商品は約三〇〇万円、什器備品は約二〇万円、借家権は約七五万円であり、預金のうち、北陸銀行の定期預金一〇〇万円と六万三、一〇〇円は被告の母のものであり、信用金庫の普通預金は約二万円であり、北陸銀行の普通預金はない。7項中のその余の事実は否認する。結局、原被告間の同居期間中における資産の増加は、(1)土地約二〇〇万円、(2)自動車約三〇万円、(3)商品約三〇〇万円、(4)什器備品約二〇万円、(5)借家権約七五万円、(6)増築建物約一三〇万円、(7)預金約四〇〇万円の合計約一一五五万円である。これに対し、同居期間中に(1)北陸銀行に対する負債約一四〇万円、(2)寺田商会等の問屋に対する負債約四四二万円、(3)個人よりの借入金約二〇〇万円の合計約七八二万円の負債の増加があつた。したがつて、資産と負債の差額は約三七三万円であり、原告の協力度等を考慮すると、財産分与としては右の約三分の一に相当する約一二五万円を超えるものではない。なお、原告は家を出るにあたり、ほとんどの預金証書を持ち出したため、被告は経営資金に困り、農協、北陸銀行から緊急融資を受けざるを得なくなり、少なくとも持出預貯金など約四〇〇万円相当の直接間接の損害を蒙つたから、右事情は財産分与にあたり特別事情として考慮されるべきである。

第三  証拠(省略)

別紙

被告所有資産目録

一、土地(朝日町泊中金管三一三番の三)一〇四、三八平方メートルの持分二分の一) 金一〇〇万円

一、自動車(日産セドリツク一台・スバル三六〇 一台) 金五〇万円

一、商品(時計・指輪・ネツクレス・眼鏡・万年筆・ライター等) 金六〇〇万円

一、什器備品(検眼機、商品陳列台等) 金五〇万円

一、借家権(富山市覚中町五番地所在鉄筋コンクリート造地下一階地上三階山野ビルの一、二階六一、八一平方メートル) 金二二〇万円

一、預金 金四、九一六、二四七円

<省略>

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